『十住心論』(空海著)とは?わかりやすく解説

空海 空海

【この記事でわかること】

  • 『十住心論』の特徴
  • 『十住心論』に書かれている10段階の心の内容と特徴

『十住心論』とは?

空海は数多くの著作を遺しましたが、その代表作の1つに『十住心論』(じゅうじゅうしんろん)があります。

正式名は、『秘密曼荼羅十住心論』(ひみつまんだらじゅうじゅうしんろん)です。

長くてむずかしい名前ですね(汗)

覚えるのが大変そうです^^;

830年、淳和(じゅんな)天皇は各宗派に対し、自分たちの宗派がどのような教えを説いているかをまとめ、提出するように命じました。

その際に空海がまとめたのが『秘蔵宝鑰』(ひぞうほうやく)3巻です。

その『秘蔵宝鑰』の詳細版が『十住心論』なのです。

『十住心論』では、大日経の「住心品」(じゅうしんぼん)に記されていることにもとづき、真言密教の行者の菩薩としての心のあり方=「住心」がどのように展開するのかが論じられています。

と同時に、人間のものの考え方、宗派、哲学を10段階に整理し、真言密教が最高の住心であると主張しています。

要は、人間の心のあり方を10段階に分け、真言密教のあり方が最高だと言っているのが『十住心論』だというわけです。

では、1から10までの段階の住心を順に見ていきましょう^^

十住心①異生羝羊住心

十住心の第1段階は「異生羝羊住心」(いしょうていようじゅうしん)です。

「異生」とは異なった生を受ける者という意味で、凡人のこと。

「羝羊」とは雄羊のことです。

つまり、「異生羝羊住心」とは動物的な人の心で、道徳的な善悪の区別がつかず、因果応報の法則を知らず、欲望のままに生きる凡人の心の段階です。

こういう人、たまにいますよね(汗)

十住心②愚童持斎住心

十住心の第2段階は「愚童持斎住心」(ぐどうじさいじゅうしん)です。

「愚童」は愚かな少年を意味し、「持斎」は斎を持つ=節食して他の者に自分の食物を施すことを意味します。

この心では、善悪の区別がつくようになり、道徳的な善を意識的に行なう、世間の倫理に目覚めた心の段階です。

具体的には、儒教の三綱、五常、また、仏教の五戒十善を行なう心の段階です。

私の心のあり方は、この段階だと思います(笑)

下から2番目ですね(汗)

いや、この段階まで到達していなくて、ひょっとしたら1.5段階かも……(大汗)

十住心③嬰童無畏住心

十住心の第3段階は「嬰童無畏住心」(ようどうむいじゅうしん)です。

道徳的な善を行なうという段階からさらに進んで、神々を崇(あが)め、天に生まれることを願い、宗教的な安心を得て、畏れがないという状態に達した心の段階です。

この段階では、子どもが母親のもとで安心するような心の状態です。

具体的には、バラモン教の信者の心の段階です。

ここまでは、いまだ仏教を信仰するまでにいたらない段階で、「世間三箇(せけんさんが)の住心」と呼ばれています。

空海にとっては、宗教を信じていても、それが仏教以外なら心の状態は低いということですね。

十住心④唯蘊無我住心

十住心の第4段階は「唯蘊無我住心」(ゆいうんむがじゅうしん)です。

「蘊」というのは、人間の肉体を含むすべての物質を構成する「色、受、想、行、識」という5つの要素のことです。

しかし、そのような要素は実体ではない、一時的に集まっているにすぎない、つまり、不変的な自我は存在しないという仏教の初歩=声聞乗(しょうもんじょう:仏の教えを聞いて悟りをめざす教え)を理解している心の段階です

この段階では、自己への執着がなくなります。

自己への執着がなくても、半分の段階にも達していないというのは厳しいですね……

十住心⑤抜業因種住心

十住心の第5段階は「抜業因種住心」(ばつごういんしゅじゅうしん)です。

輪廻転生(りんねてんしょう)をもたらす業(ごう)の原因を取り除く心の段階です。

すなわち、声聞乗では迷いがもたらす現象を取り除くだけですが、さらにその根本を断ち切り、新たな業が生起するのを取り除く縁覚乗(えんがくじょう:仏の教えによらずに悟りを開く者)の教えを、他人の助けを借りず、みずから実践する人の心のことです。

これら「唯蘊無我住心」と「抜業因種住心」の2住心は、上座部仏教(小乗仏教)の信者の心の段階だとされます。

この段階で、やっと半分の段階まで達しました。

十住心⑥他縁大乗住心

十住心の第6段階は「他縁大乗住心」(たえんだいじょうじゅうしん)です。

声聞、縁覚、菩薩の三乗を唱える法相宗(ほっそうしゅう)、ならびにインド唯識派の信者の心の段階です。

この段階では、唯識を知り、衆生の苦を救う大悲が生じます。

もう、このあたりから、私は理解が追いつかなくなってきます(汗)

十住心⑦覚心不生住心

十住心の第8段階は「覚心不生住心」(かくしんふしょうじゅうしん)です。

この世のすべての存在や現象を空(くう)と捉え、真の安らぎを得る大乗の菩薩の心の段階です。

三論宗とインド中観派の教えがこれに該当します。

十住心⑧一道無為住心

十住心の第8段階は「一道無為住心」(いちどうむいじゅうしん)です。

すべての仏の教えは法華一乗(ほっけいちじょう)に集約されるという天台宗の教えを信じる者の心の段階です。

この段階では、作為を超えたありのままの真実の道を知ることになります。

如実一道心(にょじついちどうしん)、如実知自心(にょじつちじしん)、空性無境心などとも呼ばれます。

十住心⑨極無自性住心

十住心の第9段階は「極無自性住心」(ごくむじしょうじゅうしん)です。

ブッダの悟りの境地さえも仏の初心(!)だとする華厳宗の教えを信じる心の段階です。

この段階では、すべてのものには本性がなく、あらゆる事象は縁起のなかで生じることを理解しています。

普賢菩薩が悟った瞑想の世界だとされます。

十住心⑩秘密荘厳住心

十住心の第10段階、つまり最高段階が「秘密荘厳住心」(ひみつしょうごんじゅうしん)です。

真言宗の秘密曼荼羅を悟った心の段階です。

私のような「異生羝羊住心」(第1段階)と「愚童持斎住心」(第2段階)のあいだにいる者には、もうまるでさっぱりわからない段階です(汗)

まとめ

  • 『十住心論』は、淳和天皇の勅命によって提出した、真言宗の教えをまとめた『秘蔵宝鑰』の詳細版
  • (1)異生羝羊住心(いしょうていようじゅうしん):道徳的な善悪の区別がつかない動物的な心
  • (2)愚童持斎住心(ぐどうじさいじゅうしん):善悪の区別がつき、人間的な生き方が可能な心
  • (3)嬰童無畏住心(ようどうむいじゅうしん):宗教的な(仏教以外)生き方ができる心
  • (4)唯蘊無我住心(ゆいうんむがじゅうしん):自我の非実体を知る心(声聞乗)
  • (5)抜業因種住心(ばつごういんしゅじゅうしん):他人に頼らずみずから修行する心(縁覚乗)
  • (6)他縁大乗住心(たえんだいじょうじゅうしん):声聞、縁覚、菩薩の三乗を修する心(法相宗)
  • (7)覚心不生住心(かくしんふしょうじゅうしん):心が空であることを知る心(三論宗)
  • (8)一道無為住心(いちどうむいじゅうしん):天台宗の教えを実践する心
  • (9)極無自性住心(ごくむじしょうじゅうしん):華厳宗の教えを実践する心
  • (10)秘密荘厳住心(ひみつしょうごんじゅうしん):真言宗の秘密曼荼羅を悟った心

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