最澄と空海の違いや関係を理解するうえで、密教に関する知識は欠かせません。
この記事では、密教の教え、歴史、特徴について、誰でも理解できるように簡単に解説します^^

密教とは「秘密仏教」のこと
よく「密教」(みっきょう)と言いますが、「秘密仏教」の略です。
何が「秘密」なのでしょうか?
密教以外の仏教のことを「顕教」(けんぎょう)といいますが、顕教では釈迦の教えが言葉や文字で表されています。
つまり、教えがすべて解き明かされています。
一方、密教は、釈迦が言葉では解き明かせなかった真理をすべて解き明かした教えだとされます。
悟りの境地は深遠で、言葉や文字で理解できるものではないと考えるのです。
そうした言葉や文字では解き明かせない部分が「秘密」であり、その秘密を含む仏教であるから「秘密仏教」なのです。
密教って、ずいぶん奥が深そうですね。
密教とは大乗仏教の発展形
仏教は、紀元前6世紀半ばに釈迦によって始まりました。
その後、多くの部派に分かれた「部派仏教」の時代を経て、紀元前後に「大乗仏教」が誕生します。
大乗仏教は〝すべての人びとを救う〟=〝誰でも仏になれる〟という点が特徴でした。
密教は、こうした大乗仏教の考えをさらに発展させ、〝誰もがすでに仏である〟と考える点に特徴があります。
その教えは、『大日経』(だいにちきょう)と『金剛頂経』(こんごうちょうきょう)という経典へ結実していきました。
〈仏になる!〉ではなく、〈すでに仏である!〉という考えに衝撃をおぼえる人は少なくないのではないでしょうか。
密教の最高仏は大日如来
密教においてもっとも最高位の仏は、大日如来(だいにちにょらい)です。
宇宙そのものであり、宇宙(万物)の根源としての仏です。
〈仏教の開祖・釈迦よりも偉いの?〉
そう疑問に思う方がいると思いますが、偉いというよりも、釈迦如来は大日如来の表れの1つなのです。
『大日経』『金剛頂経』では、大日如来自身によって、そのことが説かれています。
なお、大日如来自身には、智慧を表す「金剛界大日如来」と慈悲を表す「胎蔵界大日如来」の2種の表れ方があります。
大日如来像において、この違いは印の結び方に表れ、金剛界大日如来は智拳印(ちけんいん:左手の人差し指を立て右手で握り、胸の前でかまえる)を、胎蔵界大日如来は法界定印(ほっかいじょういん:右手を上、左手を下に重ねる)を結んでいます。
空海が2つの密教を統合
『大日経』と『金剛頂経』はインドにおいて別々に発展しましたが、唐へはどちらの経典も流入しました。
そして、これら2つの経典を受け継いだのが、中国僧の恵果(けいか)だったのです。
恵果は、弟子が1000人以上いたにもかかわらず、両方を伝授できるにふさわしい僧がいない状況に直面していました。
そこに現れたのが空海でした。
恵果はすぐに空海の能力を見抜き、空海へ2つの密教を伝授しました。
そして、空海は、2つの密教を統合することに成功したのです。
恵果と空海の出会いって、グッドタイミングすぎるほどの奇跡だったんですね!
台密と東密の違い
密教は最澄によっても、空海よりもひと足早く日本へ伝えられました。
最澄が伝えた密教は、天台宗で発展したので、〝天台宗の密教〟を略して「台密」(たいみつ)と呼ばれます。
一方、空海が伝えた密教は、真言宗を開いた空海が嵯峨天皇から賜った東寺(のちの教王護国寺)を拠点として広められたので、〝東寺の密教〟を略して「東密」(とうみつ)と呼ばれます。
では、台密と東密はどのような違いがあるのでしょうか?
最澄は、天台宗の根本経典である『法華経』(ほけきょう)の「一乗思想」(いちじょうしそう:人はみな平等に仏になれるという教え)にもとづいて、禅や戒律を取り入れましたが、同時に密教も取り入れました。
しかし、最澄は唐で密教を充分に学ぶことができず、持ち帰った密教は不完全でした。
その不完全を補うために、最澄は、完全な密教を持ち帰った空海に経典などを貸し出してもらっていましたが、空海とはほどなく決別してしまいます。

最澄は弟子たちに、密教をしっかり学ぶようにとの遺言を遺して、この世を去りました。
そこで、最澄の死後、弟子の円仁(えんにん:第三世天台座主)と円珍(えんちん:第五世天台座主)は唐へ渡って密教を学び、日本へ戻ると、比叡山を拠点に密教の基盤を強くしました。
そして、円仁の弟子の安然(あんねん)のころ、台密は完成しました。
最澄以来の悲願をなしとげた安然の喜びは、ひとしおだったと思います。
その台密では、釈迦如来と大日如来(密教の最高仏)は同一で、大日如来と釈迦如来は別の名前で呼ばれているだけだと唱えます。
釈迦は顕教の教主です。
一方、大日如来は密教の教主です。
しかし、両者に優劣はありません。
台密では、顕教と密教は根本的に同じで、「顕密一致」(けんみついっち)だと考えるのです。
これに対して東密では、密教こそが仏教の究極の教えで、顕教は密教へいたる中途段階だと考えます。
そのため、釈迦如来やその他の如来、また、菩薩や明王などはすべて大日如来の化身(けしん:仮の姿)であり、大日如来だけが最高位の仏だとされるのです。
こう見てくると、顕密一致の最澄と、密教上位の空海とは、そもそも根本的に考えが違っていたわけで、決別してしまうのも必然だったと思えます。
まとめ
- 密教は「秘密仏教」の略
- 密教は大乗仏教の発展形
- 最高仏の大日如来には2種類の表れ方がある
- 空海は2つの密教を統合
- 台密と東密の違いは顕教と密教の捉え方(一致する/しない)の違いにある
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