空海は、その生涯において、どのような著作を遺し、またそれらはどのような内容なのでしょうか?
空海の主要な著作について、わかりやすく解説します^^
空海の著作(1)『三教指帰』
空海は大学を辞め、世俗での出世の道を諦め、出家の道を選んだとき、親族や知人から非難されました。
それに応える形で書いたのが、『聾瞽指帰』(ろうこしいき)です。
のちに、空海は『聾瞽指帰』に修正を加え、書名を『三教指帰』(さんごうしいき)に改めました。
儒教、道教、仏教を比較し、仏教がもっともすぐれていることを主張する内容になっています。
性格が荒く、礼儀知らずな若者の蛭牙公子(しつがこうし)に対して、儒教の亀毛(きもう)先生、道教の虚亡隠士(きょぶいんし)、仏教の仮名乞児(かめいこつじ)がそれぞれの説を主張します。
その結果、仮名乞児がみなを納得させるというストーリーです。
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空海の著作(2)『弁顕密二教論』上下2巻
空海が唐から帰国してまもないころに著したのが『弁顕密二教論』(べんけんみつにきょうろん)です。
空海が唐から持ち帰った密教と、従来の顕教(けんぎょう:華厳、天台、法相、三論などの諸宗)とを区別し、顕教よりも密教のほうがすぐれていると論じています。
空海の教えの中心は密教である一方、他のすべての教えは顕教で、密教は顕教を含み持っていると主張するのです。
つまり、顕教は密教の一部であるにすぎず、密教は広さと深さにおいて顕教よりも優位だということです。
空海の著作(3)「風信帖」
空海が最澄に宛てて書いた手紙3通を1つの巻物にしたものです。
手紙の冒頭に「風信雲書」とあり、最初の2文字をとって「風信帖」(ふうしんじょう)と呼ばれています。
空海と最澄の交流の様子を窺い知るための貴重な資料です。
「三筆」に数えられる空海の直筆で、書道の見本としても参照されています。
国宝に指定され、東寺(教王護国寺)に所蔵されています。
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空海の著作(4)『即身成仏義』(そくしんじょうぶつぎ)
〝私たち人間はこの身このままで仏である〟という「即身成仏」(そくしんじょうぶつ)の考え方を示し、その可能性を〝立証〟したのが『即身成仏義』(そくしんじょうぶつぎ)です。
真言宗では、教えの根幹を説くもっとも重要な書物とされています。
宇宙のなかのあらゆるものは「体」(性質)「相」(姿)「用」(働き)の3つの側面から成り立っており、これらが「六大」「四曼」「三密」という概念によって説明されています。
そして、自分の仏性に気づき、「三密加持」(さんみつかじ)を修すれば、即身成仏への道が開けると説かれています。
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空海の著作(5)『声字実相義』
空海は、言葉、すなわち音声と文字をとても重視しました。
音声と文字がなければ、教えや人生は成り立たないと考えたからです。
そして、真言密教の教主である大日如来は、音声と文字を通して私たちに語りかけると説いたのが、『声字実相義』(しょうじじっそうぎ)です。
鳥の鳴き声も騒音も、すべての音は大日如来の声であり、自然の景色も壁のシミも、視覚で捉えられるすべての現象は大日如来の文字だと説かれています。
つまり、音声と文字という言葉はたんなる伝達手段ではなく、仏の真理を体現しているとされるのです。
空海の著作(6)『吽字義』
『即身成仏義』『声字実相義』と並んで「三部書」と呼ばれているのが『吽字義』(うんじぎ)です。
「吽」は古代インドのサンスクリット語において最後の音で、一般には万物の始まりと終わりという意味が込められているとされます。
しかし、空海による「吽」の分析では、その1字のなかにすべての教・理・行・果が含まれ、最終的には大日如来を意味するとされます。
そして、大日如来はあらゆる価値の源泉であり、いっさいの価値は大日如来に含まれると説かれています。
空海の著作(7)『般若心経秘鍵』
『般若心経』は多くの宗派で読まれ、また書写されていますが、その『般若心経』を真言密教の立場から独自に解釈したのが、『般若心経秘鍵』(はんにゃしんぎょうひけん)です。
ふつう『般若心経』は、あらゆる仏教諸宗諸派の〝教えの真髄〟を最大公約数的にまとめた経典だと言われます。
しかし、空海によれば、『般若心経』を真言密教の立場から解釈すると、262文字というとても短い経文のなかに、あらゆる仏教諸宗諸派の〝教えのすべて〟が含まれているといいます。
そのため、真言密教を仏教界全体に広めるための重要な著作だと位置づけられています。
空海の著作(8)『秘密曼荼羅十住心論』10巻
教えに関する著作のなかでもっともボリュームがあるのが、『秘密曼荼羅十住心論』(ひみつまんだらじゅうじゅうしんろん)、略して『十住心論』です。
『大日経』の「住心品」(じゅうしんぼん)の記述にもとづき、世の中の考え方や価値観における心のあり方を10段階に分け、各段階の特徴と、最低段階から最高段階へいたる方法について論じています。
ちなみに、最低段階は、煩悩(ぼんのう)にまみれ道徳的な善悪の区別がつかない動物的な心=「異生羝羊住心」(いしょうていようじゅうしん)で、最高段階は、真言密教における悟りの境地=「秘密荘厳住心」(ひみつしょうごんじゅうしん)です。
空海の著作(9)『秘密曼荼羅教付法伝』2巻、『真言付法伝』
真言密教の教えは、大日如来→金剛薩埵(こんごうさった)→龍猛(りゅうみょう)→龍智→金剛智→不空(ふくう)→恵果(けいか)→空海と受け継がれてきました。
この法の伝承を「付法」と呼びますが、その相承の経過と、各相承者の経歴を述べたのが、『秘密曼荼羅教付法伝』(ひみつまんだらきょうふほうでん)、略して『広付法伝』、そして『真言付法伝』(しんごんふほうでん)、略して『略付法伝』です。
宗教的に重要なだけでなく、歴史的にも価値がある著作とされています。
空海の著作(10)『文鏡秘府論』6巻
『文鏡秘府論』(ぶんきょうひふろん)は819年ごろ、空海が高野山に滞在しているときに著された文章論&詩論です。
唐の時代までの中国の古典の名文が引用されていて、それらが空海独自の視点から編纂されています。
なお、翌820年には、『文鏡秘府論』の略本である『文筆眼心抄』(ぶんぴつがんしんしょう)を著しています。
空海の著作(11)『篆隷万象名義』30巻
『篆隷万象名義』(てんれいばんしょうめいぎ)は、日本初の書体辞典です。
当時の中国の書体辞典から引用して編纂されています。
引用元の辞典の多くは失われており、そのため史料としてとても高い価値があります。
空海の著作(12)『性霊集』(しょうりょうしゅう)10巻
約30年のあいだに空海が書いた皇室への奏上文や詩歌などを集めたのが、『性霊集』(しょうりょうしゅう)です。
正式には、『遍照発揮性霊集』(へんじょうほっきしょうりょうしゅう)といいます。
空海の十大弟子の1人だった真済(しんぜい)が、空海の書いた文章を書写して10巻にまとめました。
空海の流麗で美しい文章は文学としての評価が高い一方で、その文章のなかに、空海の国家観や人生観、社会観、自然観などを窺うことができ、空海の生涯や思想を探るうえでも一級の史料となっています。
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空海の著作(13)『高野雑筆集』上下2巻
『性霊集』を補完する役割を帯びているのが、『高野雑筆集』(こうやざっぴつしゅう)です。
書簡を中心に72篇が収められています。
『性霊集』と重複していたり、弟子の書簡が混じっていたりしますが、空海に関する事跡や空海の思想を知るうえでは重要な史料となっています。
『高野往来集』(こうやおうらいしゅう)とも呼ばれます。
空海の著作(14)『秘蔵宝鑰』
『秘蔵宝鑰』(ひぞうほうやく)は、『秘密曼荼羅十住心論』(『十住心論』)のダイジェスト版です。
各宗派の教えをまとめよとの淳和(じゅんな)天皇の勅令(830年)に応じて著されました。
内容は『十住心論』と同じ。
そのため、『十住心論』は「広論」、『秘蔵宝鑰』は「略論」と呼ばれています。
どちらも、真言宗の根本聖典となっています。
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